スキンケアクリームやワックスなどをすくい取るためのスパチュラ。アライ化成では、容器製造の技術と経験を生かしてオリジナルのブーメラン型スパチュラを開発。お客様から大変好評をいただき、人気製品のひとつとなっています。
人気の秘密は何なのか?開発者である新井社長に、製品開発秘話をお聞きしました。
――まずは、スパチュラ開発のきっかけをお聞かせください。
開発に着手したのは19年前の2002年です。取引先の奥様にエステティシャンの方がおられまして、エステで使うクリームについてお話を聞く機会がありました。多数のお客様に施術する際、容器からクリームを直接手に取って塗るのではなく、スパチュラを介して塗る方にスキンケア業界全体がシフトしている時期で、その方も、使いやすいスパチュラを探しておられました。
「ストレートな棒状のものはたくさんあるけど、曲がった形状のものがないか探している」という話を聞き、これは開発の余地がありそうだと思い立ったのが、ブーメラン型スパチュラ開発に着手したきっかけですね。
――エステティシャンとの共同開発になりますか?
共同開発ではないですが、「曲がっている方が使いやすい」というプロユーザーの声がヒントになりました。その後は、私ひとりの構想で形状から設計に着手しました。
――絶妙な角度設計に感じますが、ユーザーへのヒアリングや試作品の作成はどのくらいされましたか?
ヒアリングはしてないですね。あったほうがよかったかな?
設計については「人間工学に基づいて…」「黄金比を使用していて…」と言いたいところですが、正直なところ自分の感覚と直感のみです。
図面設計後、試作品を厚紙で作成し、手に持った時に違和感がないか、指でなぞり、曲がり具合などを調整しましたが、あまり時間はかけていません。金型での試作品も作成しませんでした。成型屋としてそこは完成品をイメージできますから。
――シンプルな形状の中に、持ちやすさ、すくいやすさといった機能性が宿っていると感じました。今後、更に進化させたスパチュラを作る予定はあるのですか?
このスパチュラが完成した後、異なる形状のものをいくつか試作したのですが、現状のブーメラン型を超えることは出来なかったですね。
「こういうのもありかな」と、様々な形状・バランスを試みましたが納得できなかった。
――納得できなかった理由をお聞かせください。
「美しくなかった」の一言になりますが、試みた方法として、機能面の拡張による形状変更が良い方向に進まなかったのだと思います。
――機能性の足し算がよくなかったということでしょうか?
そうかもしれないですね。下駄のような脚をつけて、机の上に置いても汚れないようにしたらどうかと思い、金型まで作成して成型してみましたが、仕上がったものを手に取ると、違和感というか、「何か違うな」という気持ちが込み上げてきましたね。機能的な形状を付加したことで、見た目も手触りも「納得できるスパチュラ」から離れてしまった。
コスメ以外の分野では使える可能性があるかもしれませんが。「コスメ的ではない=美しくない」という感じです。
――直感で作成した、第一号の完成度が高すぎたのですね。もっと精度を高めたいという思いはあっても、直感を超えることは出来なかったということでしょうか?
そうですね。直感と言いますか、私はモノづくりには「妙=偶発的に生まれる美しさや良さ」が大切な気がしています。「曲げるとどうなんだろう」という妙なきっかけからスタートし、結果的によく売れるものになった。おそらく、良いものを作ろうとデータ分析や計算をしているだけだったら、ブーメラン型スパチュラが誕生するには、もう少し時間が掛かったのではと思います。
なので、ブーメラン型のアップデートができるタイミングは、その「妙」に期待するしかないと考えています。
――なるほど。その「妙」に期待する気持ち、わかるような気がします。モノづくりに関わる人は共感する部分があるのではないでしょうか。
使いやすいと評判のスパチュラ開発の根底にあったのは、成型屋としての直感と、直感から生まれたシンプルな機能性でした。
次回はブーメラン型スパチュラの「成型屋としてのこだわり」について掘り下げたいと思います。